今回は、昨年末に京都で行われたATACカンファレンス2016で、サービス紹介や個別ご相談ブースとして使われた、車イスで自力で出入りできる開口部付きBasicVRドーム(通称:ATACドーム)を、お求めいただいた「埼玉県立熊谷特別支援学校」の先生たちによる素敵な実践の一部をご紹介させていただきます。
活用方法は、主に以下の5つ。
1)スヌーズレンルームとして
2)シアタールームとして
3)プラネタリウムルームとして
4)落ち着ける場所として
5)障害の重い児童生徒の実態把握の部屋として
正直、自分には聞き慣れない言葉が多かったため、具体的にペーパードームをなんで使っていただけているのか?
以降、同校の関口先生に教えていただきました。
スヌーズレンルームが欲しかった
スヌーズレンについては、リンク先を参照ください。
“障害の重い子どもたちの中には、なかなか反応が少ない子や外界への気づきが難しい子どもたちがいます。
ドームのような真っ暗な静かな空間で、光や音を感じることで「何だろう?」と気づく力や、「心地良いなぁ♪落ち着くなぁ」「面白そうだな!」「触ってみようかな!」という感覚や気持ちが育ち、外界への認知を高めていくことができると感じております。”
【田中コメント】
ドーム型スクリーンの基本性能「遮光性の高さ」が、スヌーズレンルームに役立つとは思ってもいませんでした。
建築的な観点からは、昔から球や円状の空間は、子宮内のように保護された安心感を与えることから「子宮的空間」とされています。またペーパードームの大きさは、ほぼ四畳半に内接する球体ということで、大きすぎず&小さすぎない普段親しんでる空間サイズであることから、高い安心感を生み出せるのかも?と改めて気がつかされました。
障害の重い子どもたちの注視する力や追視する力を高めるための環境設定をしたかった
“ほとんど反応のない子の実態把握と指導構築に携わっているのですが、
- この子は見えているのか
- どの程度の光なら感じ取れるのか
- 何色なら注意が向くのか
- 上下左右に動かしたものを追視できるのか
- 聞こえているのか
- どの程度の音なら感じ取れるのか
- どんな音なら注意が向けられるのか
などについて、より正確な実態把握のため、いままでは外界の刺激がほとんどない、静かで真っ暗な部屋で実態把握をしていました。
ドームはその状況を作ることができるので良いと思います。
また、多動傾向の子どもたちがドームの中だと落ち着いているという報告が寄せられています。余分な刺激がなく、自分や相手、目の前にあるものに集中できるためなのかなと感じていて、落ち着くための部屋、気持ちを切り替えるための部屋としての活用も広がっています。”
【田中コメント】
既存の空間を変更することは、予算的にも時間的にもなかなかできませんが、ペーパードームは既存の空間内にプラグイン(挿入)する形で、全く性質の異なる空間が作り出すことができます。
「普段目にしない形」である事も、気持ちを切り替えられる大切なポイントです。
またペーパードームは、非常に正確に全ての面が中心に面している三角形によって構成されているので、どの角度から光が当たっているのか?どの方角の音に反応したのか?など、3次元空間の方向を正確に知るのに適しています。
そうした面も、今後活用されていくのかもしれません。
子どもの身体に負担をかけない位置で、プロジェクターを投影したかった
“座ることが難しい重度身体障害の子たちが多いため、天井に映像を投影できて、寝転がりながら楽な姿勢で映像を楽しむことができる&天井にきれいに映像や星空を写したいという要望が多かった。”
【田中コメント】
これは、まさしくペーパードームが目指しているドーム型スクリーンの利用法です。
ドーム型だと、全方位が投影に適しているので、方向に関係なく見る人の姿勢に合わせて投影できます。特に天井に向けて投影すると、子供なら数人おとななら2〜3人が並んで寝転がりながら鑑賞できるので、プラネタリウムの上映ができるため、寝ながらゆったり楽しめると好評です。
ただ、座ることが難しい〜というところと、この後出てくるお話の中で、子供達が壁に手を付いたら破れてしまう〜という段ボールの弱さを考慮すると、現在開発中の、天井から釣る方式の半球ドームも良いかもしれません。
Spheroと組み合わせて使いたい
Spheroというどんな色にも光るラジコンボールと組み合わせて、スヌーズレンや追視、注視の学習をしたかった。
1)追視、注視の学習
Spheroのアプリを起動し、ボールの色を変えたり、光の明るさを変えたりしながら、真っ暗なドーム内を走らせたり、また教員が持ってゆっくり上下左右に動かして、見る力を育てます。2)ボールの軌跡アート
シャッタースピードを遅くできるアプリを使い、ドームの中でSpheroを走らせその軌跡を撮影してアート作品を作ります。3)プログラミング学習
ドーム内を自由に走らせたり、プログラムして走らせたりします。ドームの大きさが決まっているので、プログラムを組むときにどのように組めばいいか試行錯誤しながら学習できます。
【田中コメント】
プログラム学習用ロボットSpheroとペーパードームの組み合わせは、思ってもいなかった面白い組み合わせですね。
位置や方角がわかりやすいペーパードームと、光や動きをプログラムしやすいSphero、その両者を組み合わせることで、様々なトライアンドエラーが可能な環境が構築できると思いました。また各種センサーを幾何学形状のドーム側にも組み合わせてプログラミングに活用するのも面白そうです。
上記に加え、いくつか課題点を頂きました。
1)動きが少ない肢体不自由児が在籍する本校でもすでに何ヶ所か穴が空いているため、知的障害特別支援学校で導入する場合ではさらに耐久性に課題がある。知的障害がある子にとってとても良い空間なので、もう少し厚みがあったり丈夫だと良い。
お使いいただいているBasicVRドームの段ボールの厚みは3mmですが、厚さが5mmの段ボールを用いると強度は格段にUPしますが…数量がまとまらないと材料費が何倍にもなってしまうのが課題となります。
またペーパードームの強みは「弱いこと」です。
もしぶつかってもドームが破けるだけで、人が怪我することや機材が傷つくことがないからです。そして、あまり強度をUPすると、今度はドーム自体が転倒する恐れが出てきます。
その観点から、破けたら交換する交換用部品をオプションで用意しようと思います。
2)ビスの上に貼る大きめの丸いシールがあると良い。壁にぶつかりビスが取れた時に、口の中にビスを入れた児童がいたそうで、誤飲を防ぐため。
この視点はありませんでした。
実は、ATACドームはスクリーン用ドームと異なるビスを用いています。スクリーン用ドームには、ビスが光を反射しない様に丸シールが付属しています。ただし用途が異なるので、もっと剥がれにくいシールに変更し、ドーム崩壊時にビスだけが単体で外れてしまうことが無いようにしたいと思います。
3)組み立てが大変だった。
特に、試作段階だった開口部の組立が大変だったと思います。
現在、同じ大きさの別バージョンの開口部を再設計中です。新しいバージョンは、よりコンパクトに&簡単に組み立て&分解できる様設計しています。
また、組み立ての順番を変更することで、より天頂部が組み立てやすくなりました。※ごく最近発見しました。
急ぎ「作り方ガイド」をヴァージョンアップさせていただきます。
以上、埼玉県立熊谷特別支援学校様のドーム利用事例でした。
なお本記事の無断引用および転載はできません。
ご質問、ご相談、お問い合わせは、hello@paper-dome.comまでお問い合わせください。
全ての写真提供および掲載許諾:埼玉県立熊谷特別支援学校